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大阪高等裁判所 昭和37年(う)2136号 判決 1963年4月18日

被告人 狩谷純助

主文

原判決を破棄する。

被告人を罰金一万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五〇〇円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

理由

案ずるに、原判決が、本件弁護士法違反の公訴事実につき、被告人が、ともに弁護士の資格を有しない千葉金男と相謀り、報酬を得る目的で、昭和三五年九月中旬頃荒井守から鵜川勇に対する債権八六万円の取立委任を受け、右鵜川から公訴事実掲記のように合計金三五万円の取立をしたとの事実を証拠によつて認定し、かつ右の取立行為は同法七二条所定の法律事務を取り扱つた場合に該当するとしながら、被告人の右行為は業としてなされたものでないから弁護士法七二条に違反しないとして、被告人に対し無罪の言渡をしたことは所論のとおりであるところ、いやしくも弁護士でない者が、法定の除外事由がないのに、報酬を得る目的で同条にいわゆる法律事件に関して法律事務を取り扱つた以上は、それが業としてなされたものであるかどうかにかかわりなく、同条に違反し同法七七条に該当するものと解すべきであつて、この点において原判決には法令の解釈適用を誤つた違法があるというのほかはない。けだし、同法七二条は、「弁護士でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び訴願、審査の請求、異議の申立等行政庁に対する不服申立事件その一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。但し、この法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。」と規定し、その本文前段の「法律事務を取り扱い」の文言と後段の「又はこれらの周旋をすることを業とする」の文言との間に読点が付されていて、そこに「業とする」ことが要件とされているのは後段の周旋行為についてだけであり、前段の法律事務取扱い行為自体についてはそれが業としてなされることを要しないことが既に文理上明らかであるのみならず、このように解することがいわゆる非弁活動の防止を目的とする同条の解釈として、合理的であるからである。すなわち、右後段にいわゆる周旋行為については、その行為自体本来法律的知識を必要とするものではなく、又周旋者自ら他人の権利義務の得喪変更に直接影響のある行為をするものでもないから、たとえ弁護士でない者がそのような周旋行為をしたとしても、それが業としてなされたのではなく、いわば偶発的に行われたに過ぎない場合には、なんらの弊害もなく、敢えてこれを違法として取締るべき必要はないが、それが業としてなされる場合には、周旋業者と特定弁護士との相互利用など弁護士の品位を害するような事態の発生も予想され、これを防止すべき必要があるので、法は特に右周旋行為を業とする場合にかぎり取締の対象としたものと考えられるのである。これに反し、前段に列記されている行為を見ると、それはいわゆる法律事件に関して鑑定、代理、仲裁もしくは和解その他法律事務を取り扱う行為であつて、本来法律的知識を必要とするものであるのみならず、他人の権利義務の得喪変更に多大の影響を及ぼすものであるから、弁護士でない者、すなわち、その法律的知識についてはなんらの保証もなく弁護士会による自主的規制にも服さない者が報酬を得る目的でこれらの行為をすることを許すならば、法が、特に弁護士制度を設けこれらの行為をすることをもつて弁護士の職務とするとともにその資格及び職務の執行等について厳格な規制を施している趣旨が没却されることは明らかであるのみならず、その行為の過程及び結果において依頼者又はその相手方の人権を侵害し社会正義に反するような事態が生ずる虞がないとはいえないのである。そして、この点については、その行為が業としてなされたものであるかどうかによつて、結論を異にすべき理由は全く存在しないのである。

以上の次第で、原判決には法令の解釈適用を誤つた違法があり、それが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、刑事訴訟法三九七条一項、三八〇条により原判決を破棄したうえ、同法四〇〇条但書によりさらに次のとおり判決する。

(罪となるべき事実)

被告人は、千葉金男と共謀のうえ、弁護士ではなくかつ法定の除外事由がないのに、報酬を得る目的で、昭和三五年九月中旬頃、荒井守から、同人の鵜川勇に対する債権八六万円につきその取立の委任を受け、同月下旬頃三回にわたり、大阪市東区唐物町二丁目四番地ノーブル化粧料本舗外一ヵ所で、右荒井のため、鵜川から合計金三五万円を取り立て、もつて法律事件に関して法律事務を取り扱つたものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

弁護士法七七条、七二条、刑法一八条

(裁判官 松村寿伝夫 塩田宇三郎 河村澄夫)

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